2017年12月1日金曜日

くららのいのち




なんとびっくり、今日から暦は12月…。
どうりで毎日寒いわけだ…!


つい最近の11月末、
井上牧場ではまた
「アニマルウェルフェアってなんだろう」と考えてしまう出来事が。
それは2017年に活躍した井上牧場のアイドル牛の1頭、
くららさんのお話です。


アイドル牛ちゃんなだけあって、
とってもたくさん写真が残っていますので、
井上牧場の記録という意味も込め、紹介させて頂きます^^



くららは5月27日生まれの女の子です。



くららは生まれたときから体の弱い牛さんでした。
お母さんは初産で、体の大きい赤ちゃんだったこともあって、難産。
それでも生きて生まれてきました。



長い間お母さんから出てこなかったせいなのか、
顔はすごくむくんでいて
すぐに立つことができなかったし
ミルクも自力で飲むことができなかった。



生まれて2日後、5月29日のくららさん。


なんだか顔がむくむくしていますね!



くららは元気になってきたけれど、
生後5日になっても足が弱くて上手に立つこともできませんでした。
いわゆる「ナックル」というものらしく、
本来のように蹄で立つことができず、
つま先?をぐにゃっとしてしまうのです。
なので無理やりつま先?を伸ばして、蹄で立つように矯正します。


あ、お察しの通りもちろん足が悪いから「くらら」と呼ぶようになりました…!
くららの話は8月25日のブログでも少し紹介しています^^
http://inouemilkfarm.blogspot.jp/2017/08/1025.html


5月30日 強制リハビリをされるくららさん!



少しずつ自分で立っている時間が長くなってきました^^




くららはとっても特別扱いされて暮らしていました。
足の悪いくららさんは自由に動けないので、ハッチはいつも全開。


6月5日  それでもいつもきちんとハッチの中にいます。



6月9日のくららさん。ようやく顔がすっきりしてきたように見えます!
…まだまだ腫れているかしら…。



くららはやっと歩くのが上手になってきました。


6月20日 相変わらず出入り自由なハッチを飛び出して、
うろうろとお散歩することが増えました。




6月21日 お隣の仔牛ちゃんハッチのすぐそばでお昼寝してみたり。



7月2日  お迎えのハッチで暮らす双子ガンジーちゃんのところに挨拶にいったり。


でもまだ右のほっぺたはしもぶくれだったけれど…!
(それもまたかわいい…笑)




くららはもちろん甘ったれでした。
生まれてもう1ヵ月以上経つのに、
哺乳用のちくびがないとミルクを飲みませんでした。




バケツでミルクを出されても、
この吸い口がないと飲み始めることはありません。
仔牛がかりのあみちゃんに吸い口をもらってやっと、
ミルクを飲み始めます。


でもバケツに入った水はちくびがなくても飲んでいました…。
ただの甘ったれです。
もしくは、彼女のなかで
「ミルクはちくびで飲むもの」
という決まりがあったのかもしれません。





くららはハッチを出て、
自分の好きな場所をお散歩したりお昼寝したりしていました。


他の仔牛たちみたいに、
素早く走ったり、鳴いたりすることはなかったけれど、
ゆっくりと楽しそうに歩きまわります。


7月7日のこのとき、
くららは
放牧場と牛舎の通り道にあるスーパーハッチの付近をお散歩していていました。


写真はスーパーハッチの牛さん用飲み水をぬすんでいたところです。
(やっぱり水はちくびがなくても飲みます…笑。)


ちょうどそのとき、放牧場に出かけるお母さん牛たちに遭遇しました。




大きいおばさん牛さんたちに囲まれても動じないくららさん…



あみちゃんと一緒に、
放牧場へ出かけるお母さん牛たちを見送ります。
このときくららは生後1ヵ月半ほど。


やっぱりガリガリかな~?



くららは何度も体調を崩していたように記憶しています。
一時期発症したのが、「コクシジウム症」というやつだそうでした。
下痢が続いたり、血便がでたりするようです。
そのせいで、
普通の仔牛たちのようにハッチの柵をしめて、一日中その中で過ごすこともありました。


7月26日はハッチの中にて、
牧場にきたお客さんからバナナをもらって嬉しそうにしていました~。


くららは飼料をたくさん食べる方ではありませんでした。
でも、バナナは大好きでした。



8月26日、この頃はまた自由なお散歩タイムが与えられていたようです。
この日もくららはハッチの外を出てうとうとしていました。
少しは大きくなってきたでしょうか?



くららはとても人が好きで、
さすってもらうのも好きで、
お散歩中に誰かに遭遇すると挨拶しにきてくれました。


お世話係のあみちゃんのことも大好きで、
作業中のあみちゃんの後をいつもついて歩いていました。


8月27日 あみちゃんの後をついてあるくくらら。



この頃にはすっかり離乳をしていて、
もうミルクをもらうことはなかったけれど、
どうもミルクの味が恋しいらしく、
それもあってあみちゃんをおいかけまわしていたそう。



ミルクづくりをする小屋をのぞくくららさん。
どうやら自分の分もつくってもらえるのではないかと期待していようです!




そんな自由気ままなくららの毎日は続いていきます。
くららの生活はたぶん、ちょっと、(いや結構、、、)ズルいです…笑。



9月9日 いつのまに立ち姿はすっかり牛さんになっています!
顔だちもなんだかりりしい。


くららはとてもおっとりしていて、
のんびりとした牛さんでした。


私たちからみてもとにかくぼーっとしていて、
ほかの多くの牛たちと比べて、
少し変わった性格だったかもしれません。


いつでもぼーっとしているくららの顔は一瞬無表情に見えるけれども、
実はそんなことはなく。
さまざまな顔を見せてくれました。
そしてすごく甘えん坊。



あみちゃんの腕枕で一緒にお昼寝することもあったそう。




そしてようやく、くららにとってはじめての集団生活。
スーパーハッチデビューです!
ここまでくると、その他普通の牛さんたちと同じ生活になります。


10月14日、くららはまだ先住民たちとなじめずにいるようでした~。



仔牛たちにとって、
この初めての共同生活はなかなか緊張するもののようです。


なので、こういった「お引越し」のときはできるだけ
1頭だけで移動、合流させることはせず、
2~3頭ずつ一緒に動かすようにしているそう。


この1668ばんは、
1666のくららさんと同じタイミングでスーパーハッチにきた仔牛ちゃん↓。
くららよりも1ヵ月半ほど後に生まれた仔牛です!


この2頭↓は、先にスーパーハッチで暮らしていた先住民の2頭です!



その5日後、10月19日には同期の仔牛ちゃんと仲良くなり。


10月24日には、先住民の2頭にはさまれ草を食べています。
すっかりなじんでいるようでした!


10月28日にはこの表情。



スーパーハッチにきても甘ったれなのは相変わらずで、
誰かがくるたびなでてもらったり、
さすってもらうのを待っています。



11月10日、雪が降ったり融けたりで、
ますます足元が悪いスーパーハッチでしたが、
くららの様子はいつもどおり。
元気そうにしている姿をみていると、
くららも普通のお母さん牛になっていくかもしれないな~と、
期待できる気がしました。



この間、実はちょっと牧場をのぞくことが減っていて、
あんまりくららの様子を見に行っていなかったんですが、
11月22日には、くららはまた起き上がれなくなっていました。



以前に発症したコクシジウムが再発したようで、
ぐったりして、身動きがとれなくなっています。
また1頭暮らしのハッチで過ごすことになりました。



水を飲んだりごはんを食べることもできないので、
口元まで水や草、飼料をはこんだりします。
体が冷えないように毛布をかけたり、湯たんぽをおいたりします。
獣医さんに診察してもらい、
抗生物質を入れたり、点滴を打つようになりました。



11月23日、相変わらず起き上がることはできなくて、
さとみさんの特別なお世話と、治療が続いていました。
口元にある牧草を噛んだりしていて、
昨日よりは調子がよくなったようにも見えました。



11月24日、なんだかますます状態が悪くなっているように見えました。
目のところが腫れて開かないみたいです。



くららの具合が悪くなってから、
私は毎日くららに会いにいきました。
これはもしかして、
くららの命が終わってしまうかもしれないなあと思ったからです。



11月も末、北海道オホーツク地方はもうすっかり冬です。
マイナス気温が続いたり、地吹雪がおこるほど冷たい風が吹いたりします。


11月25日には、生まれたばかりの仔牛ちゃんが過ごすための室内に移動していました。
なんだかちょっとだけ調子がよさそうに見えました。


くららのお世話はまさに介護です。
食事や水を人の手で与えて、
重たい体を支えて寝返りさせて。
獣医さんに診てもらって、薬を投与したりします。


起き上がることができない日が、
1日1日重なるたびに、
酪農家、獣医さんは厳しい判断を迫られることになります。


明日になったらよくなるのか。
もし元気になっても、どれくらい通常の牛たちと同じ生活ができるのか。
お母さん牛になって、乳牛として活躍できるようになるのか。
先のことは全くわからないうえに、
面倒をみる1日、数時間は、酪農家にとっても獣医さんにとっても負担となります。
時間をかけるほど作業量が増え、
それでもくららがこの先利益を出せるかはわからないからです。


獣医さんも悩んでいたようです。
獣医さん、酪農家さんによっては、
この段階で命をあきらめてしまうケースもあります。
それでもまだ、くららさんは生きていました。


11月26日には、新しい仔牛が生まれていました。
重症のくららさんを追い出すわけにはいかず、少しの間同居です。


次の日には、生まれたての仔牛ちゃんは外のハッチへうつっていきました。
万が一くららに感染していた菌がうつっても大変だし、
足をばたつかせるくららに蹴られてケガをすることも心配だからです。
反対に、仔牛ちゃんが立ち上がってくららを踏んでしまうこともあります。



11月の末、寒い冬に、
生まれて数時間、1日ほどの仔牛ちゃんを野外のハッチにうつすことが、
仔牛ちゃんにとってはかわいそうなことだったかもしれません。
具合が悪くどれだけ回復するかもわからないくららと、
生まれたばかりの元気な仔牛。
健全な経営を目指す牧場にとって、
大事にするべきは生まれたばかりの元気な仔牛でしょうか。



11月27日も、くららの介護は続きます。
くららの状態が悪くなってもう1週間近く。
介護をするさとみさんにとても大きな負担だったようです。
それでもたくさん声をかけながら、
無理やりにでもごはんを食べさせます。


くららには元気になってほしかったけど、
正直「難しいかもしれない」という思いも強かったです。
今の社会、畜産業の現場で、
くららのような牛の場合、
いつ命が終わりになっても仕方がない状態だったと思います。


「くららを死なせないでほしい」と、
井上牧場を営む両親に訴えることは簡単でしたが、
それが必ずしも、
くららにとって、牧場にとって、自分にとってよいことかはわからないので、
それは言いませんでした。


頭を起こせないくららは、
目を開けるときに下側になっている目が寝藁にあたって痛そうなので、
頭の下にタオルを敷いてもらっていました。


がんばってごはんを食べたり、
「バナナ食べるの?」と聞くと体を動かしたり、
なんとなく頭を起こしたりして、
「もしかして!」と思ったりもしました。


その次の日の11月28日、私が最後にあったくららさんです。
少し元気そうだった昨日よりも、
ぐったりしているように見えました。


くららの命はこの日が最後でした。
くららが自分で死んでしまったのではなく、
くららはまだ生きていたけれど、
もう乳牛としての見込みがなく、
家畜としての価値がないことが大きな理由で、
命を終わらせることを人間が判断した結果です。


くららは、死んでしまうまでの数日間苦しかったでしょうか。
何も手をかけなければ、もっと早く自然に死んでしまっていたでしょうか。
苦しくても、まだ生きていたかったでしょうか、
もう数日待てば、奇跡的に回復したでしょうか。
あるいは、この先しばらく、同じ状態が続いていたでしょうか。


牧場を営むためには、
命を生み出したり、
命を奪ったりすることがよくあります。
それはある意味仕方のないことで、
(いや本当は仕方のないことなんかじゃないかもしれないけれど…)
命のこととか牛たちの気持ちなんていちいち考えずに、
無神経になったり、諦めてしまうことが楽なこともすごくわかる。
それでも、やっぱり命に対して鈍感になってほしくなくて、
牛飼いをする人たちや、それに携わる人たちには、
とっても申し訳ないけどずっと悩んでてほしい…
と、消費者として、思ってます。


この半年間、くららが生み出したお金としての価値は¥0ではありません、
くららを産んだことでお母さん牛がお乳を出してくれているからです。
それでも、今の社会で家畜としてのくららは
お金と労力がかかるだけで経営的にはとってもマイナスです。


それでもくららが生まれて、生きていた半年間は、
井上牧場にとってもきっと意味のある時間で、
くららみたいな牛の症例として記録にも残るだろうと思います。


牧場での出来事は、
牧場の遠くに暮らしている人たちにとって遠い出来事ではなくて、
牛乳やお肉を頂く人たちにとってはとても身近なことです。
ここで紹介したくららの一生が、
身近な牧場での出来事を知る、何かに気づく、考えるきっかけになれたとしたら、
それもまたくららの命の価値のひとつになるんじゃないかな、
そうなるといいな~と願っています^^


くららちゃんありがとうね~!楽しかったね!!



2 件のコメント:

  1. 生と死の現実を日々見る業界です。
    だからこそ、
    生に対して真剣に向き合って行く事も出来ますね。

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    1. コメントありがとうございます^^
      生きるのも、死ぬのも、あたりまえのことなのに、
      「普通」の生活をしているとついつい忘れてしまいそうになりますよね。
      牧場の近くで暮らせる環境はとてもありがたいです!

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