2018年2月28日水曜日

搾乳牛の″淘汰”のはなし。どの命を頂戴するか。




1年の間でいちばん寒さの厳しい2月も、
さすが2月、
もう終わります。


北海道の冬は長いとはいえ、
さすがに3月にもなれば春が近づいてきた感じがしてくる…
はず…!
だと…いいな…!


そんなわけで
マイナス20℃以下にまで冷え込む朝も
珍しくない井上牧場の2月ですが、
だけどやっぱり赤ちゃん仔牛が産まれることもあります。



今月最初の赤ちゃんはホルスタインの双子ちゃんでした~。
全然似ていないけど、
最初の写真の仔牛ちゃんと、
下↓の仔牛ちゃんは双子です。


井上さんちの牛ちゃんたちは、
いいんだか悪いんだか体が小さい子が多いです。
(体格の小さい子は市場でいえば値段は安くなりがちです…!)


今回は双子だからということもあいまって、
これまた小さい仔牛ちゃんたち…。



井上さんち界隈を仕切るコロちゃん(犬)とたいして変わらない大きさ…。


牛というより、ヤギ…って感じです笑



こちら↓は井上牧場で現役の稼ぎ頭たちである
搾乳牛(お母さん牛)たちの牛舎です。




この搾乳牛さん用の牛舎は、
冬の間、以下3つのブースに分かれています。
一番奥が搾乳中の体が大きかったり、″強い”牛さんたち(井上牧場ではB群と呼びます)、
真ん中が搾乳中の体が小さめだったり、″弱い”牛さんたち(井上牧場ではA群と呼びます)、
一番手前は出産が近くなった搾乳をお休みしているお母さん牛(″乾乳”中の牛さん)たちのブースです。


この一番手前のブースには、
初めての出産を控えるお姉さん牛たちもいるのですが、
ちょっと前までとかなり顔ぶれが変わっていてビックリ。


↓これはつい最近の”乾乳”中の牛さんブースの様子です。
右から3頭はみんな、2016年生まれの初産牛さんたちになっていました。


つい最近までは、こことは別の育成牛たちの牛舎で過ごしていたのに、
いつのまにこっちのお母さん牛たち牛舎へきていたのね~。


2年前の3月はこんなんだったのに…。



昔小さかった女の子牛が大きくなって、
人工授精をして妊娠期間を経て、
赤ちゃんを出産すると、
今度は搾乳牛のお母さん牛たちが暮らすブースへと移動します。



酪農を営む牛飼いにとって、
女の子の仔牛は嬉しいけれど、
若い牛を残して育てていくということは、
それだけ牛舎の中で暮らす牛たちが増えてしまうことです。



このブログでも何度かお話してきたのですが、
牛舎のスペースは決まっているので、
そのままでは新しいお母さん牛たちが増えるほど
1頭あたりのスペースが少なくなり、
牛舎の中は汚れる一方で、
確保しなくちゃいけない食事の量も増えていきます。
牛たちにとっても快適とはいえません。


そんな状況を避けるため、
ときどき、「淘汰」が行われます。
それは、以前からいるお母さん牛の誰かにお役目御免を強いること。
命を頂くということです。


http://inouemilkfarm.blogspot.jp/2017/07/blog-post.html




2月には2頭のお母さん牛が、
トラックにのってでていきました。
相変わらず、牛飼いの毎日は出会いと別れでいっぱいです。






″淘汰”の対象になる牛さんはだいたい、
お乳の質が悪くなってしまったり、
人工授精をしても妊娠することがない牛さんだったり。
そんな牛たちが何頭かいるときは、
中でも特に状態が悪いとか、
年齢を重ねているとか、
ちょっと性格に難あり(牧場の人たちにとって…^^;!)だとか、
そんなことを総合的にみて、
今回どの牛を送り出すか決めなくちゃいけません。



1360番の牛さんは、
とってもブラウンスイス!!な牛さんでした。



毛色もキレイな白っぽい茶色で、
ブラウンスイスらしい「糊口」(口のまわりが白い!)
それから鼻筋(…?)の両脇に、
白い点がついていて、触るとボコっとしています!




彼女はお母さん牛たちのなかでもなんとなく目立っていて、
井上牧場のなかでもちょっと特別な牛だったと思います。
そしてすごく人なつっこい性格でした。
おかげでカメラを見つめている写真も多く残っています。




1日2回の除糞作業(お掃除のことです!)をしているときも、
なぜだかいつも近くによってきて、
その様子はジャマくさくもあるのですが
きっと愛らしい仕草でもあったのでしょう~。


彼女はたしか2回ほど?
出産をしたのですが、
そのあとはなかなか種がつかないので、
結構前から淘汰の対象になっていたと聞いています。


代表のヒデさんは、
彼女の毛皮がキレイなので「毛皮残しておけないかな~」
とつぶやいていたそうです。


なかなか我が家からと畜場へ行った牛さんの毛皮を引き取るのも、
今の仕組みでは難しいようですね~^^;





牧場作業員はかなり贔屓にしていた牛さんのようで、
お迎えのくる前の日に、一緒に写真をとっておきました~。




牛たちを迎えにくるトラックはだいたいお昼頃が多いようで、
普段お見送りが得意ではない私も、
牧場作業員の夫に誘われトラックを待つことに。



トラックに乗っていく2月19日は冷え込んではいてもとても天気がよくて、
1360番は牛舎内の屋根のないところで、
ひなたぼっこを楽しんでいるようでした。
彼女の表情や行動をみていると、
牛たちはどこまで人間の言葉や感情を理解して、
自分の運命を知っているのかな~、とまた不思議に思います。


↓こっちはこの日一緒に出ていった1340番。
いつもどおりごはんを楽しんでいました~^^



そうこうしているうちにお迎えがきまして、
この日もおとなしい彼女はわりとすんなりと″もくし(顔につける縄です)”をつけて、
トラックの荷台の前までは進んでいったのですが、




車に乗り込むのはやっぱり怖かったようで、
結構大変だったようです^^;





何百kgもある大きな牛を、
ロープ1本で思うように動かすのは技術が必要で、
もし牛が暴れたり、転んだりして、
思わぬ方向へパワーをかけてしまったら、
人間側も大変なことになってしまうでしょう。



↓この、荷台に乗り込む1歩が出なくて、
1度体制を崩して転んでしまったので、
ますます動かなくなってしまい苦労しておりました~。



このやりとりがだいたい10分ほどで、
ようやく無事にトラックに乗り込んでくれました~。





トラックで牛たちを迎えにきてくれる運送やさんの方が、
何度かトラックに乗ったことがある牛は比較的すんなり乗り降りができるとおしえてくれました~。


酪農を営む牛飼いさんの中には、
仔牛が産まれたら出産するまでの1~2年の間を″育成牧場”という別の牧場に預ける場合もあれば、
メスの仔牛や出産直前の初妊牛を買い取る場合もあります。
そんな牛さんであれば昔トラックに乗って移動した経験があるので、
すーっと乗ってくれることも多いそう。


産まれてから今までずっとこの場所で過ごしてきた井上牧場の牛たちにとっては、
移動するということだけでも大変な緊張やストレスかもしれませんね~。





一方、もう1頭の1340番のほうは、
もくしをつけて引っ張るときにはちょっと暴れた様子でしたが、
先に1頭待っていたこともあってトラックへの乗り込みはスムーズでした。


今回のように輸送してくれる担当の方が優しく牛たちに接してくれるのも、
牧場主たちにとっても、
見てるだけの私にとっても、
すごく安心できてありがたかったです。


温厚で臆病な牛たちにとって、
優しく静かに接してもらえることはとても重要なんだそうですよ~。
もし牛たちに出会うことがあったらぜひ、
大きい声を出さずゆっくりした動きで接してみてくださいね~^^


こうして無事に2頭は井上牧場を出発しまして、
次の日にはお肉となってくれたようです~。
さあどこでどんなお料理になって、
どんな人が食べてくれるのでしょう。
今回のようにただ「廃用牛」として出荷、
販売した牛さんの行先についてはわからないのも、
今の井上牧場にとってはちょっとした悩みです。


どの子を残して、
どの子を手放すのか。
その基準は一体何にするのか。
それはすべて牛飼いさん次第。



どれだけ思い入れの強かった特別扱いでカワイイ牛さんでも、
出産の頻度やお乳の質、健康状態、
牛群のバランスなどなどからみて、
まず誰の命を頂くのか、
総合的に判断しなくちゃいけない。
″家畜”や″経済動物”と言われる動物たちとの暮らしの中では、
そんな厳しい場面も訪れるんですね~。



1360番のいなくなった牛舎内のお掃除は、
きっとちょっと寂しい代わりに作業が捗ってしまうんだろうな~。



(そもそも特定の牛ちゃんを特別扱いしちゃいけないのかもしれないけれど、
こっちは矛盾だらけで感情まかせの人間なんで、
どうしてもちょっとお気に入りの子って出てきちゃうのは仕方ない…!)



1360番も1340番も、2013年生まれの牛さんでした。
5年にも満たない生涯だったけれども、
ありがとうね~^^
きっとこのあとも、
お肉として私たちの誰かの生きていく糧になってくれることと思います。



どうかみなさまが日々の食事をますます大切にしてくれますように~!


2018年2月12日月曜日

井上牧場とCasochiの関係について


まだまだ真っ白な北海道滝上町です。
ここは国道273号線から井上牧場へ向かう道。


小学校、中学校へ向かう通学路でもあります。


一面真っ白の畑は、
誰の足跡もなくめちゃくちゃきれいです~。


足跡つけたいなあと思うところですが、
雪深すぎて長靴でも雪入ってきてツライのでできません…。
かんじきとかスノーシューとかないと無理です…。
(あれば余裕で雪の上ウォーク楽しめます!!
しかし個人的には年中通してインドアなのでよっぽどじゃないとしません…笑)




冬になって雪が降るたびに除雪車がとおりまして、
そのたびに道路の脇にどんどん雪が押されていくんです。
そうすると、道路脇がすごい高さになっていきます。



小学生の頃はこの上を歩いて帰るのが好きで、
そうすると片道15分くらいの帰り道が
へいきで1時間くらいかかってしまうという。。。
(そして靴に雪が入り最終的にとても寒くて冷たくて辛いです。)


道産子キッズのあるあるネタでしょうね~^^;!


そしてこんな過疎地な場所にある
井上牧場で生まれ育ちました私たち、
三女(平成生まれ)と次女で
2016年の12月に
「Casochi」という合同会社をたちあげております。
読み方はカソチです。
“過疎地”のカソチです…笑。
ちなみに代表は三女です。
長女もいろいろ手伝ってくれてます!




先日、ありがたいことに北海道新聞さんに
「Casochi」の取材を頂き、記事を掲載頂きまして、
多くの方から声をかけて頂きました…!




まだこの会社、立ち上げたばかりなのと、
稼働している本人たちがのんびりしているので、
熱いパッションもカッコイイ実績もないのですが。。
「いい記事だったよ~」
と声をかけて頂き、大変感謝しています^^



「Casochiって何する会社なの?」
「次女って毎日何しているの?」
と、
とてもよく聞かれます。
これ、すごく難しい質問です笑




あえて答えるとしたら、
ロゴマークやパンフレット、チラシ、名刺、パッケージなどのデザインと、
ウェブサイトの制作や管理運営、
ここら辺にある素材、人材を活用したハンドメイド品の制作、販売。
といったところでしょうか。
のんびりですが、
「ヒマだな~」と思うヒマはない程度の、
お声かけを頂けるようになりました。
このブログも、体制的にはCasochiが管理運営していることとしています。
井上牧場さんはいちユーザーさんです。


↑「いのうえさんちのラズベリー石けん」もCasochiでデザイン、印刷などお受けしているものです^^
ただいま(2018年2月)滝上町の道の駅でも販売中です~!!


このあとは、
過疎地域で楽しいイベントの企画・運営や、
食べもの、食べる場所をつくりたいな~と妄想、計画中~。



ますます何屋さんなのかわかりませんね!


Casochiは、
「何屋さん」
「何業」をするために生まれたのではありません。


だから一言で、
「何会社」っていうのが難しいです。



それってなんだかすごく変な感じがするかもしれないけれど、
一般的には利益を目的に活動する「会社」は、
何かしら必要とされているモノやサービスを提供することで、
継続することができるそうです。



そして、
世の中にとって必要とされること、
価値があることは、
時代とともに変わっていきます。



「何する会社」か決めてしまったら、
その「何」が必要なくなってしまったとき、
一緒に消えてしまうかもしれません。



だから、
会社やシゴトが長生きするために、
それから自分が長く幸せに楽しく暮らしていくために大事なのは、
「何をするか」よりも、
「何を目指すか」のほうなんじゃないかしら。


Casochiが目指すこと、
やりたいことはこんなこと。



こういう場所、つまり「過疎地」っていいな~と思うのに、
そう思っている人がまだまだ少ない。
何より過疎地に住んでいる人が、その良さに気づいていない。
私たち自身も、
この場所が好きだけど、
まだ好きじゃない部分がある。



山と川に囲まれて空気がおいしいし、
人が少なくて静かだし、
星もきれいだし、
季節それぞれに美味しい素材を楽しめるし、
どこでも大きい声で歌ったり、
なんならどこでもトイレできるし、
ネットでいつでも情報収集できるし、
車やバスや飛行機でいつだって都会に出ることもできる、
すごく贅沢で素敵な場所です。



そんな、ステキな場所だってことを住んでる人にも、
住んでいない人にも伝えたい。



だけどまだまだ好きじゃない部分もある。
この場所でうまれた野菜や牛乳を手に入れることができないし、
おいしくて安心の食材をつかったメニューがすくないし、
かわいくてオシャレなカフェも、おみやげもすくないし、
“私たちが”好きな楽しいイベントもすくない。



だったら自分たちでそろえていけばいいし、
この小さな地域ならそれができるきがする。



「そんなことしたいね!」
って言ってみたはいいけど、
次女と三女のままでは
どうにものんびりしてしまうんで、
「ちゃんとやろう!」の意思表示でつくりだしたのが、
Casochiさん。

↑北海道の過疎地の冬の牧場ではいろんなところでしりすべりが可能です



簡単に言えば、
「まちおこし」とか
「地域をもりあげる」とかいうやつかもしれないけれど、
そんな社会派なこととか、
問題解決みたいなことじゃなくて、
もっと自分たち目線の、
好きなことをする、
好きなもの、場所をつくる、
好きな生き方をしたいな~という単純なこと。



ところで、
必ず全ての人にずっとずっと絶対に必要とされ続けることといえば、
衣食住に関わること。
もっといえば、
「食べ物」に関わること。



野菜だったり、魚だったり、お肉だったり。
生きていく栄養になるもの。
だから、「生産者」と言われる職や生き方は、
理由も何もなく、絶対大事で必要なものです。



そしてそんな職や生き方ができるのは、
コンクリートと建物でいっぱいの都市部より、
森や山、畑、緑、川や海がたくさんある過疎地のほう。
だから過疎地は過疎地であるかぎり持続していくはずで、
カッコイイ地域だと思います。



そんな過疎地らしい生き方の1つが、
井上牧場のような、牛飼いであり、牧場です。



Casochiにとって井上牧場は、
いちばん身近な過疎地の資源で、
親子関係があるから手っ取り早いお客さん対象でもありました。



いまの井上牧場の規模や体制では、
自分たちだけで情報発信をしたり、
商品開発や販売をするのは難しいです。
私たちが、より身近な視点で、
井上牧場はどんな牧場で、
牛たちはどんなものを食べたり、
どんな暮らしをしているのか、
きちんと伝えていくお手伝いをすることで
お肉だったり、牛乳だったり、石けんだったりが、
より価値のあるものとして届けることができるんじゃないかなと、
考えています。



昨年より少しずつ準備をしていて、
この春にはCasochiとして
「井上牧場の牛乳」が販売できるようになる予定です!



すみません、設備などなどの都合で、
個人さんがスーパーで購入して冷蔵庫にいれておけるような
仕様の容器、量にはならないのですが、
いろいろと厳しい日本の牛乳に対する規制、基準をクリアできるものなので、
飲食店で牛乳や乳製品、メニューの材料として提供してもらえる牛乳ができる予定です~。



というわけで、
Casochiのいまのオシゴトはこんな感じです^^
牛乳の商品開発についても、
われわれCasochiがfacebookやブログでお伝えしていきます!!





井上牧場の次女 兼 Casochiのカソチの暮らしサポーター
みなみ